2012.04.07

「60歳以上のパイロット二人乗務OK」とは・・・。「安全の規制」は、商業的な理由で緩和すべきではない!!

「60歳以上のパイロット二人乗務OK」という「安全規制緩和」!に反対です!

1.航空法で超高速の航空機の場合、多くの人命を預かるパイロットは、「心臓発作・脳梗 塞」などで意識を喪失するか、突然死をする事態も想定して、60歳で定年としていた。しかし、近年、60歳→62歳→64歳と自らの安全規制を緩和してきた。それも、二人のパイロット(通常は機長と副操縦士)のうち一人だけと制限してきた。制限するにはするだけの根拠があったためである。原発事故をみるまでもなく、一万メーターの上空では、常に「想定外」のことが起きる可能性があり、これに対処するためには、人格識見と飛行経験だけでなく「相当な体力」をも要するのである。私は30年の乗務経験の中で、事故にこそならず・公表さえされなかった数々の「ひやり」とした場面を体験している。国内線では、一日に3回4回の離着陸、国際線では長時間交代なしでの乗務、過密化した空域でのニアミスの危険性、テロなどへの対策、強風・雨や雪のもとでの操縦、非常事態(機材の故障・機内で病人発生・迷惑行為発生などでの緊急降下、などなど「体力なくしては知見も発揮できない」のが実状だ。機材のシステムでも、新機材は「FAIL SAFE」を競い合うのは、これがだめでもこれがあると二重三重にバックアップしていることを売り物にしていることを見ても自明である。どんなに操縦やシステムがコンピューター化されても所詮動かすのは人間の判断力である。大切な多くの人命を一瞬の「判断力」の遅れで失うことがあってはならない世界と言える。

2.航空機の整備は、「航空運航会社」が行わなくても良いことになり、更にエンジンなどの重整備でも外国特に経費削減できるアジアに「外注」できるようになり、その上、「キャリーオーバースタンダード(故障やトラブルがあった個所や部品を直したり、交換したりすることを規定した法律」も「墜落に直接つながらなければ、多少の難があっても次にその航空機が基地に帰ってくるまでフライトしても良い」という方向で、年々規制緩和されてきた。更にさらに、着陸した航空機のシップサイドで点検し、トラブルが直せる「整備士」の配置が義務付けられていたものが、「トラブルの報告」はするがその場では「直すべきかどうかの判断や直すスキル」のある「整備士」を配置しなくてよいことになっているという問題もあった。最近では、「飛行間の着陸時には、整備士そのものを配置しなくても良い」ということにまでなってきている。

3.機内の「保安要員」であるCAにおいては、人件費削減のあおりを受けて、訓練は受けていても、実際に「クラッシュ」や「緊急着陸」などの事態に対応できるどころか、旅客より早く逃げ出す外国エアラインの例も事故のあるたびに散見される。日本においても「保安要員としての位置づけの劣化」は目を覆うものがある。国内大手でも「ドア操作」「カート暴走」などのミスは記憶に新しいところでもある。

4.航空会社が「パイロット不足」で国交省に規制緩和を要請した、という報道であるが、これは実に矛盾している。JALでは、「55歳以上の機長、48歳以上の副操縦士」が年齢を理由に70名ほど解雇されていると聞く。今も法廷で争われているほどである。不足しているのは、「低賃金で過酷な乗務をこなすパイロット」と言うに過ぎないのではないか?。NHKの報道も国交省と航空会社の利益優先を先にして、「乗客の安全」には、申し訳程度の言い訳をしているように聞こえてならない。公正を欠いたものスカイマークなどは、国会でも追及されたこともあり、「安全より利益優先」と社長が言い放ったことで有名だが、解雇されたパイロットや定年後のパイロットを低賃金で大量雇用しているのも実態だ。「パイロットが風邪で発熱していても、休ませない」などの訴えは、山のように聞こえてくる。

5.次に「パイロットの養成」について言えば、民間エアライン成長期には、「自衛隊」から採用したり、アメリカのパイロット派遣会社から調達したりしていたが、近年は「航空大学校卒」をその主なソースとし、一方で1968年から「パイロットの自社養成」をしてきた。これも経費が掛かるということで、最近では、更にコスト削減をめざし、大学教育課程や自費で「基本的なパイロットライセンス」を取得した者を採用条件にするように変化しつつある。

6.航空機の運航現場」では、これだけあらゆる方向で「安全への規制緩和」が進められてきている。安全という視点から再度見つめなおした場合、「コックピット(操縦士)」の問題は、「最後の安全の抑え」という問題だと考える。

「60歳以上の二人乗務」ということは、国交省の発言では「8年前にパイロットの年齢制限を64歳まで引き上げて以降、健康上の理由による運航中のトラブルが1件も起きていないこと」を理由に挙げているが、「半年に1回の健康診断」でチェックしていても、「予測不能な事態」を甘くする理由になどなりはしない。3月31日の「羽田で起きたJALしりもち事故」の原因も不明な中で、およそ「危機感」を感じられない当局の発表には、驚くばかり・・・。

「利用者の安全よりも業界の要請優先」の姿勢、ここに極まれり!という感想です。

旅客機 60歳超だけで運航も
 4月6日 19時5分 NHK
旅客機のパイロットが不足していることを受けて、国土交通省は、現在は、2人のうち1人しか認めていない60歳から64歳までのパイロットの2人乗務を認める方針を固めました。
今後、航空医学の専門家の了承を得たうえで、早ければ来月にも正式に決めることにしています。

旅客機のパイロットは、以前は59歳までしか乗務できませんでしたが、現在は機長と副操縦士のどちらかに限って、通常のパイロットより詳しい身体検査を条件に64歳まで認められています。

しかし、団塊の世代の大量退職や、格安航空会社の相次ぐ就航で、パイロットが不足しているなか、航空会社からさらなる規制の緩和を求める意見が出されていました。

これを受けて、国土交通省が検討した結果、8年前にパイロットの年齢制限を64歳まで引き上げて以降、健康上の理由による運航中のトラブルが1件も起きていないことから、6日の会議で60歳以上のパイロットの2人での乗務を認める方針を決めました。
国土交通省は、今後、航空医学の専門家の了承を得たうえで、国内線だけで認めるのか、国際線も含めるのかなど、さらに詳しい条件を検討して、早ければ来月中にも正式に決めることにしています。
60歳超のパイロットの現状
大勢の乗客の命を預かる旅客機のパイロットは、気力・体力ともに充実していなければならず、以前は60歳が定年でした。
国土交通省は、16年前に年齢制限を62歳までに、8年前には64歳まで引き上げました。
背景はパイロット不足です。
国内線の旅客数は、この30年でおよそ倍に膨らみ、運航便数も増えていますが、団塊の世代の大量退職や、世界的に格安航空会社の就航が相次ぐなかで、パイロットが足りなくなっているのです。
ただし、60歳以上のパイロットを認めるには2つの条件がつけられました。
1つ目はより厳しい身体検査です。 パイロットは年に1度、航空法で定められた身体検査を受けていますが、60歳以上は、半年に1度で、さらに3種類の心電図を取るなど心臓を中心により詳しい「付加検査」を義務づけました。
2つ目は、機長と副操縦士の2人のパイロットのうち、60歳以上は1人だけに限られました。
それでも、60歳以上のパイロットは年々増えて、現在は、6390人のパイロットのうち、60歳以上のパイロットは、全体のおよそ8%、495人に上っています。
しかし、航空会社からは、さらなる規制の緩和を求める意見が出されていました。
ちなみに、海外で60歳以上の2人乗務は、アメリカやニュージーランドなどが国内線に限って認めています。
専門家“医学面の検討も”
みずからも日本航空で63歳までパイロットをしていた航空評論家の小林宏之さんは「私も60歳以上で何年間か飛行したが、パイロットは、健康管理や技量管理を非常に厳しくやっている。今回の方針が出たということは、経験豊富なパイロットが乗務できるという意味ではいいことだ。大手の航空会社は乗務員のやりくりがやりやすくなるし、新興の航空会社にとっては経験豊富なパイロットを募集できるということで、非常にメリットがあるのではないか」と評価しました。
その一方で、「加齢に伴って高血圧や動脈硬化といった、医学的なリスクも高くなるので、今まで以上に医学的な面からの十分な検討も続けていく必要がある」と指摘しています。

 

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コメント

ekameiさま
ご意見投稿ありがとうございます。
これまで「なぜ、法律の下に年齢制限を課して来たのか」の一語に尽きるのではないかと思います。ご意見には反することになりますが、技術革新など代替できた問題とは明らかに性格を異にすると思います。航空会社間の競争が激化しているからと言って、「安全へのコストカット」は、許されない、と考えます。「旅客の支払う運賃」に対しての責任でもあるのではないでしょうか。また、ご意見をお聞かせください。重ねてありがとうございました。

投稿者: 秀島

パイロットは「操縦士」ではなく「オペレーター」であり、特に巡航中は「操縦」することはほとんどありません。

「万が一」に備えて2名乗務しているわけで、貴殿の指摘は見当違いと言うほかありません

こういった場合はどうでしょうか?
現行法では60歳以上(パイロットA)+60歳未満(パイロットB)の組み合わせになります

例えばパイロットBが急病等で操縦不能の事態になった場合、60歳以上であるパイロットA一人になります

この状況は60歳以上二人のコンビで、一人が操縦不能の事態になった時と同じではありませんか?

規制緩和=安全性低下という理論は非常に短絡的です
いみじくも「評論家」である貴殿の意見とは思えません


投稿者: ekamai

機長個人別の体力差は認めますが、ダブル機長ならという考えは疑問です。これが国内だけならよいのですが、10時間を超える場合相方機長は休憩しなければならない。コンピュータをうまく使って飛ぶ、コンピュータを使いこなして飛ぶ時代では、名パイロットの定義も変わってきているのではと思いますが。

投稿者: M.HARI

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