2008.06.03

こんな”ぎりぎり”で運航していたの?    スカイマークの運休トラブル

~どうしてこんな事態になったのでしょうか~

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2名のパイロットが辞めた、だけで168便もストップしてしまう。恐ろしいほど「ぎりぎり」の運航がされていた、ということが明るみに出た訳です。少なくとも尋常のエアラインであれば、パイロットも客室も整備も「直接飛行機を運航する現場の要員」の人員枠は、「安全・快適」を守るためはもちろんですが、法的にも「病気」「休暇」「待機」などの枠を見込んで運用せねばなりません。従って、天候その他の事情で便が乱れたりしても、対応できるバッファとなっているのが実状です。

公共交通機関という社会的使命を持ったエアラインが、内部事情、特に必要な人員を手当てしていないことで「飛行機を止めてしまう」ことなど考えられないことでした。

~指導監督官庁は、どうして事前に察知できないのか~

国交省航空局は、本来こうした「行き過ぎ」をウォッチし、すばやい指導や指示をしなければいけないものと認識していますが、いつでも「トラブル」には後手後手です。エアラインの思惑が「利益優先」に傾かざるを得ないような「航空の規制緩和」を次々と敢行しておいて、あちこちに「安全のきしみ」が出てきても知らん振りをしている姿勢は、まことに納得できないものがあります。多くの旅客の命を守ることにもう少し使命感を持っていただきたいと思います。

~月間100時間という過酷さは、想像に絶するものです~

国内線を飛んでいるパイロットや客室乗務員の乗務・勤務状況を見ますとかつてからすると日に日に「過酷さ」が増しています。コスト削減の嵐の中で、「安全」を守るべき担い手が「疲弊」して「笑顔」も出ない様相なのです。こうした「嵐」は、巨大エアラインから始まり、「格安運賃」で旅客をひきつけることを至上命題とされた、LCCエアラインにはとりわけ強いプレッシャーとしてかかってきています。整備の問題でも「外国への外注化」などに表れてきていますが・・・。

航空法では、パイロットは「航空従事者」として位置ずけられて、その勤務態様も細則で決められています。例えば、月間のフライトタイムは、100時間を越えてはならない、というものですが、「この航空法上の制限ぎりぎりに運用する」エアラインは、殆どありません。なぜなら、実態とあまりにかけ離れた制限だからです。国内ならば、平均3回以上の離着陸を繰り返すことは「緊張感の限界」でもあり、その集積である月間のフライトタイムは、「体力的に目いっぱい飛んでも60~70時間が限界である」ことは、一度でも「乗務」を体験したものであれば、容易に理解できます。旅客・利用者の立場に立った場合、「疲労して、ぼっーとなった瞬間があったり、いざと言うときに正常な判断力も生まれてこない状態」は、好ましいものではありません。

こういった現場の声は、「うっすらとでも」反映されていて、多くのエアラインでは、パイロットの「実フライトタイム」は、おおよそ60~70時間に、抑えられているようです。もっとも、「訓練」「学習」などのため、地上勤務している時間も必要ですから、結果としてこうなっていることもあるとも言えますが・・・。ちなみに、客室乗務員のフライトタイムは、私の時代では、「月間80時間以内」「確か年間で900時間」制限というのを社内の契約規則として持っておりました。現在は、「月間85時間」となり、更に「90時間まで飛べる」ような改定が行われるように聞いています。私なら年齢もありますが、まず「体を壊す前に辞めたい」心境になるでしょう。「時間」というのは、それほどの「過酷さ」をもっていますので、少し説明を加えました。

さて、パイロットの月間の乗務時間制限ということでは、「JAL」は85時間、「ANA」は90時間ですが、実際の運用は、70時間程度、「エアドゥ」「スターフライヤーズ」などLCCといわれるエアラインでもこの点は、ぎりぎり守られているようです。

しかし、この「スカイマーク」は、以前より「100時間までのぎりぎり乗務」ということで、航空ではその「過酷さ」では有名であり、パイロット不足の中で「居つかない」という状況がありました。昨年末には2名、3月に5名が辞めていました。こうした積み重ねを補充しようにも「パイロット」が集まらないという事態のようです。

更に、B-767からB-737新機材への移行訓練も絡んでいるようですが、背景は、「過酷さ」「未来への展望が持てない」などに原因があるようです。

~世界的な「パイロット不足」という背景~

アメリカ・EU・アジア・中東を含めて、航空業界は、「ジャンボ機など大型機による大量輸送」から、空席をなるべくつくらない、燃油費も効率化する、ということで「中型・小型機」への「ダウンサイジング」が主流となっています。従って、中型以下(B-767、777、787、737-800、エアバスA-330、350など)は、その数は数倍の規模で需要が高まり、そのうえ、「LCC=ロ-コストキャリア」がアジアも加えて「林立」状態で、圧倒的な「パイロット不足」をきたしています。

~JAL・ANAでさえ、養成に必死~

加えて、日本では、「団塊世代のパイロットの大量退職」という事態もあり、航空大学校卒と自社養成の2本立てプログラムもこれまで通りだけでは、需要を満たせず、外国人に頼る気配もうかがえます。ANAでは、「東海大学と提携してパイロット養成で提携」などもありますが、訓練費用を基礎的な部分は学生に払わせるということも透けてみえますので、どこまで有効かという点もあります。JAL・ANAとて運航上へのしわ寄せは表面化するまでには、至っていなくとも「パイロットの疲労」ということも考えると「不確実な養成計画」といわれています。

~外人クルーも引く手あまた~

これまでは、日本のエアラインは、JAL系ではJALWAYS、ANA系ではAIRJAPANなどで、外人パイロットが半数を超えている状況ですが、その理由は、「賃金が高い日本人より外国人」という点にありましたが、現在は、「パイロットの争奪戦で、コストのことなどより確保意する」事のほうが、優先、という状況に変化しています。

従って、「労働条件が悪ければ、すぐエアラインを移る」ということが目につきます。NCA(日本貨物航空)では、契約期間中に辞める場合には、違約金を支払うという制度があってもこれを支払って辞めてゆくということまで起きています。

~格安運賃歓迎の中で・・・。~

利用者からすれば、「航空運賃」は安価であるほうが良いに決まっています。しかし、「安全」を見せかけやスローガンだけにして、「コスト削減」のターゲットにされてはかないません。

本質は、格安航空だけでなく、航空として「全体的」に運賃を下げられる素地があるにもかかわらず、「基本運賃」は毎年値上げをして、その一方で座席の纏め売りをして「価格破壊の安売り」が生まれるシステムには、手をつけないところにあります。「各種割引」が華やかですが、「使いたいときに使えないマイレージ」と同様、「乗りたいときは高いとき」なのです。

たまたま、「スカイマーク」に「航空の死角」が現われてきた現象ですが、実は奥の深い問題でもあります。利用者としては、今後もこうした動静に注目してエアラインは「安全性」で選ぶ、という答をしなくてはいけないのではないでしょうか。

スカイマーク、操縦士欠員で168便運休 退職2人、補充できず

朝日新聞.6月3日
 航空会社スカイマーク(東京都港区)は2日、機長2人が5月末に退職したため、6月2日から29日にかけて、羽田
と新千歳、旭川、神戸、福岡の各空港を結ぶ4路線計168便(全運航便の約1割)が運航できなくなると、国土交通省に届け出た。操縦士の欠員で大規模な運休になるのは、きわめて異例。同社は「予期せぬ退職で対応が追いつかなかった。30日には通常ダイヤに戻すよう努力したい」と言っている。

 スカイマークによると、今回退職したのは、いずれも日本人。1人は病気で、1人は契約更新がうまくいかなかった。  さらに、同社は燃費効率を上げるため、機体をボーイングB767型から小型のB737型に移行を進めている最中で、移行に向けて操縦士の資格移行訓練も行っていることから人員のやりくりが苦しくなっていた。

 これに対し、国交省は利用者に混乱が生じないよう、速やかな情報提供や払い戻しなどの対応を指示。今後は人員が手当てできなかった背景も調べる。

 スカイマークは低運賃が特徴で、98年に羽田―福岡線に新規参入。機体の小型化の効果もあり、08年3月期の単体決算は3年ぶりに黒字となっている。

 新規参入の航空会社の操縦士不足を背景とする問題では、スカイネットアジア航空(SNA、本社・宮崎市)で外国人機長らが病歴を隠して身体検査を受けていた事案が発覚している。(佐々木学)

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