2007.07.10
来夏には、「787」が飛ぶ!
~切り札のカーボンファイバー素材~
7月8日、ボーイング社のお膝元、エバレット(ワシントン州)で次世代機B-787のお披露目がありました。エアバス社のA-380のデリバーが遅れている中、世界の航空機シェアを二分するエアバス社とボーイング社の熾烈なバトルに大きな影響を及ぼすショーと言ったほうが良いかもしれません。
JAL・ANAとも「大都市ハブ空港と外国ハブ空港を結ぶ大量輸送」よりも、「中型機材」による「ダウンサイジング」をはかり、小回りの聞くラインナップにすることに方針を固めてきていました。JALとてANAに遅れること数ヶ月でこの新型機がラインに投入される予定とはなっていますが、衝撃的だったのは、日本の翼としてこの新型機を最初に飛ばすのが「ANA」であること(世界で最初に飛ばすというおまけまである)、7月8日の記念すべき場面に世界に向かって「ベール」を脱いで出てきたのが「ANA」の塗装を施された機体であったこと、ではないでしょうか。詳しくは下記報道に。
~B-777との違いは、どこに?~
747-400に代表される大型機との違いは、明らかですが、現行の中型の最新鋭機B-777との違いは、どうなのでしょうか。
☆カーボンファイバーという素材の凄さ
「鉄よりも強く、アルミよりも軽く、錆びにくい」というのですからまるで魔法です。そしてなんと、主翼をはじめ 機体の35%は、日本で製造されているのですから、愛国的「誇り」のような妙にむずかゆいものも感じさせます。
☆燃費
機体重量が軽くなるわけですから当然燃料効率も上がりますが、777比較では、20%、747-400との比較では、なんと60%の改善、というのですから「争って」購入したくなるのもわかる気が致します。
☆軽量になると
当然航続距離が伸びてきます。最大15200kmということですから、時速880kmとしても16時間以上のフライトが可能となります。
これは、どういう風景になるかと言いますと、ヨーロッパのみならず、アメリカ東海岸へも中型機で効率運航ができるようになる訳です。
現在でも既にJALにおいては、ヨーロッパ線は747が退役し、すべて中型機トリプルセブン(777)で運航されており、ANAではロンドン便では、747とトリプルが併用して運航されています。しかし、米国東海岸の「ニューヨーク」「シカゴ」線では、ジェット気流の関係で日本への復路に15時間以上かかることもあり、現行では747-400いわゆるジャンボ機による運航を維持しています。こうした課題を一挙にクリアーすることになります。
☆「トイレに向かう通路で失神する」ことも少なくなる?
現行の機材では、機内は0.7気圧に与圧されています。これは、富士山で言えば3合目付近にいることと同じです。いつもと同じような量の「飲酒」でも、気圧と空気の薄さで「倍ぐらい」酔うことになりますが、着席したままですと体感的には感じないため、トイレへ行こうと歩き始めて、突然ふらっときて失神するケースは、珍しくありません。倒れたときにアームレストなど角のあるところにぶつけたりしなければ、CAも慣れていますのであまり心配はありません。通常は、酸素吸入ですぐ回復します。
話は、少しそれておりますが、報道によれば、「機密性に優れている」ということでこういう局面にも25%の改良があるようです。怖い話ではありますが、航行中にドア付近から空気が漏れていたことも体験しておりますのでより身近に感じるものです。
☆湿度が体感できるのか?
また、機内は、ほとんど湿度が感じられないくらい乾燥しており、「おしぼり」などが大した時間も経たずに「からから」になるのは、ご存知のとおりです。現行の2倍(?)は、「湿度が感じられる」ということなのでcabinを長く体験したものとして、快適性という点でも期待をしてしまいます。
~シンガポール エアラインの戦略~
一方で、アジアの航空情勢は刻々と変化をしています。日本のエアラインは「格安航空」と長期的にどう戦うかと言う課題に加えて、中国・韓国はじめアジアのエアラインは、エアバスA-380を多量に発注して、「アジアとヨーロッパ・アメリカをノンストップで結ぶ」つまり日本を経由せずに、増える一方の需要をすべて刈り取る構えでいます。巨大ジャンボといわれるA-380は、客室550席の総2階建で、18時間~20時間の航続距離を可能としています。かつてでは考えられない世界を生み出すことは、必至であり、今や「機内サービスも世界一」と言う評価は定着する中で、シンガポールエアラインは、その中心部隊でもあります。日本の翼はどういう舵取りをしてゆくのか、「新鋭B-787」という機材だけに頼りきれない側面もあると言えます。
cbc(中部日本放送)ラジオ「朝からP.O.N」でコメント致しました
以下は、これまでの主な【関係ブログ】です。
ひたひたと迫りくる「新鋭機材」のバトル!2005.11.16
JAL機材更新の一番手、737-800!2006.11.26
<B787>軽くて頑丈、経費削減…航空会社の期待高まる
7月9日 毎日新聞
次世代中型旅客機として世界の航空会社が注目する米航空機・防衛大手ボーイングの「787」(通称ドリームライナー)1号機が8日、同社工場がある米ワシントン州エバレットで初公開された。記念式典には、航空会社や製造にかかわったメーカーの幹部ら約1万5000人が参加した。「787」は、燃費効率や乗り心地、航続距離の飛躍的な向上が大きな特徴。全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)は次期主力機と位置づけ、経営改善への効果に期待を寄せている。
787は、主翼など機体の約50%を「鉄より強く、アルミニウムより軽い」と言われる炭素繊維の複合素材で製造。燃費効率は同型機比で20%、主力大型機「747―400」比で60%改善する。軽量化効果で、中型機(標準機種の座席数210~250)にもかかわらず、航続距離は最大1万5200キロと大型機並み。日本から米東海岸へも直行できる。
また、複合素材は頑丈でさびないため、従来機比で機内の気圧を約25%、湿度を2倍弱高く保てる。窓も同型機より1.6倍大きくなり、利用者にとっても快適なフライトが期待できそうだ。
航空会社の期待も大きく、すでに世界47社から677機を受注し、「民間航空機では史上最速のペース」(ボーイング)という。国内では、ANAが世界最大規模の50機を、JALが35機を発注済み。世界で最も早い受領はANAの来年5月で、JALは同8月を予定している。
収益改善効果は、ANAの場合でみると、燃料削減で年間40億円、機内スペース拡大による積載貨物量の増加などで同60億円の計約100億円を、JALは787を含めた機材更新全体で、10年度に06年度比670億円をそれぞれ見込んでいる。
経費削減のほか、路線の拡大も期待される。現在、欧米など長距離路線は大型機でしか飛べないため、就航をあきらめるか低収益も覚悟するしかなかった。しかし、低コストで長距離飛行が可能な787の登場で、実験的な路線設定も可能になる。
JALの西松遥社長は8日のシアトルでの会見で、「成田―モスクワ線などを念頭に置いている」と述べ、現在は需要が少ない路線も含めて投入する意向を示した。ANAも来年8月の北京五輪に合わせた羽田―北京線のほか、長距離路線への活用も検討中だ。【ワシントン木村旬、増田博樹】◇主要部品生産に日本のメーカー
ボーイング「787」は、日本のメーカーが主要部品生産に深くかかわっている。三菱重工業が主翼、川崎重工業が前部胴体と主脚格納部などを、富士重工業は主翼と胴体を結合する中央翼を生産している。3社合計で機体の部品・部材の約35%を担当、各社は同機に採用された技術を武器に世界の航空機産業の中で存在感を高めたい考えだ。
三菱重工は昨年9月、名古屋市内に主翼の組み立て工場を完成させ、300人体制で現在は2号機以降の主翼生産を手がけている。「787」は、今後20年で1000機超の需要があるとの予測もあり、需要を取り込むことで「世界の主翼センター」を目指す。川重も同7月に愛知県弥富市に約170億円を投じて部品工場を新設。受注の伸び次第では、生産設備の増強も検討する。
機体に使用される炭素繊維複合材は東レが開発した。東レは米仏と日本(愛媛工場)の3カ所で生産しているが、ボーイングへの納入のためいずれも増産を計画しており、8月にはフランス工場で増産体制が整う。【谷川貴史、小島昇】

コメント
航空ファンにとってはこの上なく嬉しいニュースです。
人間工学者の端くれとしても、コクピットの人間中心設計の進化に興味
があります。ここはBoeingとAirbusとで思想が最も異なるところでも
あり、両者ともに設計のよりどころ、つまり「正義」を何に求めたのか
が注目されます。Airbus380はキープコンセプトとの情報が有力ですが、
人間工学的に“安全なシステム”の軍配はどちらに上がるのでしょうか。
なにはともあれ、新型機って本当にいいですね。
投稿者: Staff
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