2004.02.09

マナーと危機管理のグローバル化

これだけは気を付けたい海外旅行

[電通報 1月26日号 文化欄]に掲載されたものです。 

待つことを楽しむアメリカ流

「アメリカ本土は、初めてです」という新人スチュワーデスを連れてのフライトでした。ロサンゼルス空港からダウンタウンに向かう車の中で、外を見ていた彼女は「あっ!アメリカにもデニーズがあるんだ?」と小さく叫びました。「日本が本家」と彼女が勘違いするほど、およそ三十年前の日本には、デニーズをはじめとして外食チェーンが続々と進出していました。一週間に一度は子供をつれて「ファミレス」で食事する、これでパパはよき家庭人、という風潮が広まった時代でもあります。この頃から、レストランに入った時には、「空いている席に、われ先に座る」という習慣から、「案内があるまで待つ」という風に、これまでの日本人の意識も変わりました。この点では、「ファミレス」はマナーのグローバル化の先駆的役割を果たしたともいえます。
今では、電車や、タクシーに列を作ることには、あまり抵抗を感じなくなってきましたが、例えば、アメリカで銀行に行って、整然と列を作り、開いた窓口に進む様子に、感心した旅行者も多いのではないかと思います。日本人であれば、行列に割り込みはさせないぞ、という構えがありますが、彼らは待つことも楽しむ風情さえあり、余裕を感じてしまいます。とはいうものの、タバコのポイ捨ても、恥ずべきことと定着してきている昨今、かつてからすれば、日本人のマナーは飛躍的に向上してきているようにも思えます。

物頼む時は少なくとも「プリーズ」を

ところが、いったん海外へ出るとなると事情は一変します。その土地々々の人から見れば「旅の恥はかき捨て」とばかりにふるまっているように見えてしまうケースが多いのは、一体どうしたことなのでしょう。欧米人は、旅行する場合、まず相手の文化を知ろうとするのが常です。私がクルーとして乗務していた機内でも「箸の使い方を教えてくれ、サンキューは日本語でなんというのか」などの質問をしてきます。一方、日本人は、そんなことより、ひたすら買い物への意欲が前面にでます。ここに違いがあるような気がします。
フライトが十時間を超えるような機内では、各旅客が、「食べる」「飲む」「眠る」「観る」などを繰り返すわけですが、その中で、「これは海外では不興を買う」という典型的なものに、「言葉の投げ捨て」があります。それは、コールボタンでクルーを呼んで、「コーヒー!」「コーク!」とフレーズにならない単語を連発することです。サービスする側は「コーヒーがどうしたの?」と心の中で反発心を養わせることにもなりかねません。英語なら、「Excuse me . Let me have a cup of coffee.」「Can I have~」のフレーズか、最低でも「Coffee Please」が必要です。いくらお金を払っていようが、物を頼むときにはこのプリーズが、いのち命ともいえる大事なことなのですが、多くの日本人は、老若を問わず、この一言がでてこないようです。ちなみにフランスでは「シルブップレ」、ドイツでは「ヴィッテ」、イタリアなら「プレーゴ」が、英語の「プリーズ」にあたります。 
 また、欧米では、エレベーターに女性が乗り合わせ、その女性が降りようとしているときには、男性は絶対先には降りません。しかし、日本人が混じった場合は必ず、男性が平気で先に降りてゆきます。乗り合わせた人達の呆れ顔を何度体験したことでしょう。些細に思えることでも、マナーとして身につけておくに越したことはありません。

世界の動向と自分の立ち位置つかめ

 さて、イラクの情勢にからんで、テロやハイジャック対策がこれまで以上に厳しく求められています。私も、航空の現場を長く体験してきたことから、関係省庁に「危機管理の問題点」を意見具申しています。その中で感じることは、日本は国家としても、国民としても世界の中で「危機管理」の意識が高いとは言えないということです。この年末年始にしても、世界の緊張をよそに外国へ出かける旅行者は、昨年を一万人上回っています。散々「SARS(新型肺炎)」で痛められてきた航空業界にとっては、大変うれしいことではありますが一方で、「旅行、大丈夫かなぁ」という声をあまり聞かないことが不思議でした。「安全は、いつも誰かが用意してくれているもの」という意識が先行しているように思えてなりません。
 旅先では、運悪く事故にあうこともあります。例えば、昨年八月ニューヨークで長時間の大停電があり、都市の機能は麻痺しました。ホテルに宿泊中の客は、たまったものではありません。エアコンは止まる、トイレも流せない、エレベーターも止まる、非常階段を使うにも軒並み高層ホテルで三十階以上にいる。普段から、飲料水と軽い食べ物を部屋に用意していた人、小さくとも懐中電灯を携行していた人はどんなに助かったことか、当時のインタビューからも窺えます。
 この時代、世界の動向をよく眺め、自分の立ち位置をよく把握したうえで、自らの「危機管理」をすることが、必須条件となってきているのではないでしょうか。

(ひでしま・いっせい=航空評論家)

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