1999.02.01

空から降るコラム(5)~“旅”は、切り口しだいで・・・~

 ガビー・メイという女性の友人がいる。元スイスアルペンチームで、世界選手権、ワールドカップで常に上位にいた可愛い強者だ。
 スイス・アンデルマットスキー場が本拠地なのだが、ここ数年は長野県のエコーバレースキー場で交換インストラクターとして、本場の香りを伝えている。テクニックはもちろん、存在そのものが、周りに新鮮な風を送り込んでいる。私たちがどこかに忘れてきたものをもっているのだ。日本の若者とは違う何かを…。まず、素朴なこと。自然を愛し、スキーを愛するスピリットではち切れそう。服装、持ち物は全て自分流。ブランド指向など微塵もない。そして、日本の皆に少しでも近づこうと、言葉の努力のみならず、隅々にその気持ちを表している。1シーズンに数回しか会わない私でも、ガビーを見ると、思わず微笑みながら握手したくなってしまう。
 ガビーだけではなく、日本で目にする外国人の多くが、怪しげな日本語を流暢に駆使して暮らしている。日本人が逆の立場だったらどうだろう。常に不安を感じていたことのひとつだ。多くの人が、少なくとも中学、高校で6年間、英語を勉強してきたという優位性を持ちながら、日本人が外国へ出た時の言語的ていたらくは、ご承知の通りだ。エグゼクティブなビジネスマンを除いて、普通の外国人は6年も日本語を学んできていないことは明白。この違いは何なのだろう。単なる語学の問題ではなく、マインドかポリシーか、考え方に差があるのかもしれない。
 旅の場面でも、何か変だなということが数々ある。たとえば、パリの地下鉄に乗っても、シャンゼリゼを歩いても、本場なのにヴィトンやフェンディを下げているフランス人はまれ。サント・レノ通りのエルメスでスカーフ売り場に群がり、一人が何枚も買い上げているのは、どこの国の人々か。ミラノのモンテ・ナポレオーネ通りのブランド店では、常に日本人サイズは品切れ状態だという。もちろん、買い物が悪いというのではない。海外でブランドのいいものを目にすると、「これ日本で買ったらいくらする?」「そんなにこれないのだから買っちゃおう」の一種の「興奮状態」に陥るのはわかる。しかし、旅=買い物になっては、いささかトゥーマッチかなと思う。
 団体旅行の宿命とはいうものの、時間刻みの観光はバスであちこち、ちょっと見物して次へのパターン。移動中のバスの車内は外の景色を見る余裕もなく、たまる疲労ですやすやぐっすり。日本へ帰って写真をひもといても、絵葉書を見るのと同じで、どこをまわったかも定かではない。こういう行動様式で訪れるツーリストに、ローカルの人々が温かく接してくれる隙間もない。しかし、この受動態がんじがらめのスケジュールのなかにも、フリータイムはある。この限られた時間を、食べるもよし、歩くもよし、おぼつかない言葉ながらもその土地に触れよう。生活や人々に接近遭遇を試みよう。そして、自分の趣味や切り口で、自分流のプロデュースすることをお勧めしたい。道を間違ったり、ひょんな所でひなびたレストランが安くておいしかったり、ひとつひとつが永遠のメモリーになる。フリータイムを買い物だけに振り回されない、一種の「決意」が必要だ。

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アジアを訪れるアメリカ人の団体の多くは、仕事をリタイアした老夫婦たちである。みんな至って気がいい。そして何にでも興味を示すのが特徴だ。日本行の飛行機の機内では、チョップスティック(箸)の使い方にはじまり、本当のニッポンを知るにはどこへ行けばいいかなど、実に率直な質問を乗務員にぶつけてくる。ひとりひとりに答えるのは大変なのだが、何かほのぼのとした気持ちになり、超忙しいなかでも、つい丁寧に教えたくなってしまう。
 旅馴れた、出張づめの日本ビジネスマンのなかにも、隠れたスキーフリークがいるだろう。こうした方々は、味気ない出張の間に、無理にでもスキーを楽しめる時間をとるといい。そうすれば、仕事に振りまわされている重い気分から一転、主役はあくまで自分と、幸せな気分になれる。海外の主要都市にはいずれも2~3時間で行けるゲレンデがある。スキーはレンタル、ウエアはジーンズでOK。そして、あんな過密なスケジュール下でまさかスキーをやってきたとは気づくまいとひそかな満足感にも浸れるのだ。その土地や人々に接近戦を挑み、自分の趣味で切った旅をプロデュースする。これこそが旅の醍醐味であると思う。
 話は変わるが、私は30年ほど航空会社でチーフパーサーとしてフライトしてきた。それだけ、旅を客観的に見てきたわけで、皆さんが同じ暇と金を使うなら、生涯の宝ににできるものにしてほしいと切に願う。たとえば年末年始のハワイ。30年前なら1機に10人の乗客があればいいほうだった。レイニーシーズンは「常夏の島」でもないことを旅する人は、よく知っていたとも言える。しかし、今やこの時期にハワイへ行くのがブランド化しているのはご承知の通り。
 以前にも書いたが私は、海外でよくひとりでゴルフに行く。そうすると、自然と友達が増える。次に行った時には、「ハーイ、ボブ」の乗りでまた一緒にまわる。ゴルフだけではないが、こうして世界中の人種を問わず、多くの友達が出来た。私の身上「友達こそかけがえのない財産」を全うしている。私は私流であるが、皆さんも皆さん流の切り口で旅を作りあげれば、素敵な人生につながると提案して、5回連載をしめたい。
 拙コラムにご感想があれば、編集部に寄せていただければ幸いです。またお会いしましょう。


文/詩井 入(しい はいる) ・・・スキー関係誌のペンネームで現在の秀島一生です。
イラスト/須藤健一氏

なおこのコラム集は、雑誌「ブルーガイドスキー」にかつて連載されたものを若干の加筆・修正を加えたものです。

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