1999.01.01

空から降るコラム(4)~乗客とスキーヤーの関係は!?~

 つい今しがたすべり降りてきたウィスラーの山々を間近に見上げながら、ジャグジーにつかっている。ここはカナダ・ウィスラーブラッコムスキーリゾート。まだ午後4時をまわったばかりというのに、ゆったり疲れをほぐしている自分。元気が残っていればナイターも…という日本でのスキーに慣れた者には、いささかもったいない時間の使い方である。しかし、馴染んでみれば、これが当たり前。ガツガツしていたのが嘘のように思えるから不思議だ。
 こんな「ゆったりずむ」を満喫させてくれる背景にはリフト、ゴンドラなどが比較的早い時間に終了するという、抵抗できない厳然とした壁というかルールがあるからだ。ここにヨーロッパやアメリカ、カナダと日本のスキーに対する考え方の違いがはっきり表れているように思える。
 このルールは、スキーフリークたちに「そろそろ気温が下がってきて、バーンが硬くなり、思わぬスピードが出ますよ。転んだらダメージは大きいし、1日すべって疲れた身体に無理は禁物。まして、コースを間違えて降りようものなら大変なことになる。山の閉店は日があるうち。これで終わってhave a good rest!」と語りかけているのである。
 このお陰で、あくせく日本人の代表を自認する私とくだんの友人(30年のフライト経験をもつ某有名航空会社のチーフパーサー)は、四方山話イン・ジャグジーとなった。いい湯だな気分にひたっていると、山を降りてくるスキーヤーの群を見ていた友人は、ふと唐突につぶやいた。
「スキー場は機内だ」
 意味不明な言葉に「なんなのそれ」と私は言うと、彼は話しはじめた。

機内で一番、扱い方に気を使うのは?と聞かれたら、迷わずビジネスクラスの日本人と答えますね。この席は一流企業、とくに商社や銀行の部長や課長クラスが大半を占めます。路線にもよりますが…。この方たちは仕事面で脂が乗り切った人たちで、会社を切りまわす事実上の指揮官だと思います。それだけに、会社は俺でもっている、会社を代表するのは自分だという自負心が旺盛。自分で航空料金を払うわけではなくても、出張につぐ出張で世界を飛びまわっているために、マイレッジも半端ではありません。どの航空会社でも上顧客メンバーとして登録されているはずです。
 こうしたステイタスの反面、時差を解消できるような余裕のある日程は許されていません。夜間フライトで、他の方が寝静まっている時にリーディングライトをつけ、ラップトップコンピュータに向かって黙々と報告書を書いていたりする。その姿は鬼気迫るものがあります。こうした激務からくる不満も加わってか、機内でご機嫌を損ねたら大変です。喫煙席を頼んだのに、飲み物のオーダーを取りにくるのが遅い、キャビン責任者からの挨拶がない…などにはじまり、こじれたら、おたくの重役の誰それを知っている、もう二度とこのエアラインには乗らないなど、日本語の通じないエアラインに乗ったとしたら、絶対に口走らないことにまでエスカレートするのです。
 これに比べて、ファーストクラスのお客さまは稲穂です。実るほど、頭を垂れる稲穂かな、です。国会議員、一流企業の社長・役員とステイタスは文句なし。彼らにとって機内は貴重なプライベートタイム、くつろぐところと徹しており、食事もそこそこに休まれ、乗務員にも気を使ってくれます。降りる際にも「ありがとう」の言葉を忘れません。
 一方、エコノミークラスのお客さまは、初めての海外旅行の方が多く、すべてに期待し、新鮮な目をもっています。無料のお酒につい度を過ごして倒れる方があったり、ミールトレイに乗っているドレッシングとミルクを間違えて使ったりは日常茶飯事。でも、それは微笑ましい光景です。乗務員の言うことを素直に聞き、小さな心遣いにも喜んでくれます。初めての旅を、老後の旅を思い出深いものにしてあげようという気持ちで接することができます。
 こうやって、スキー場を客観的に観察していると同じなんです。エキスパートたちは、急斜面ではほどよくセーブし、暴走はなし。混んでいる斜面では、技術レベルが下の人を邪魔にすることもなく、スキーの楽しさを味わっている。初級者は怖いながらも汗をかきかき必死になってボーゲンで降りてくる。これからどんどんスキーの虜になっていくんだろうな、という微笑ましさすら感じてしまいます。
 狭くて危険なリフト下を、わざわざこれみよがしにすべったり、急斜面にたくさんのスキーヤーがとりついているのに、おぼつかないビギナーの脇を暴走気味に突っ込んでいくのは、まあまあすべれるようになった中級者(インターミディエット)に多い気がします。この姿を機内のそれとダブらせると、ファースト=上級、ビジネス=中級、エコノミー=初級となんとなく言えませんか。

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 なるほど、なるほど。きつい言葉であるが妙に納得。これからは、ええかっこしいの、えせエキスパート風すべりは慎もう。リフト小屋のお兄さん、おじさんには「ご苦労サマー」の声かけよう。食堂のおばさんには「熱いラーメン、おいしかった」と感想を述べよう。スキーに情熱を燃やして一生懸命教えてくれるスクールのインストラクターには「ありがとう、がんばるよ」と応えよう。
 大自然の中のスキーエリアといえども、グッドヒューマンリレイションあってこそ、そのスケールは大きくなり、素敵な思い出を残すのではないかと気づいたのであった。

 

文/詩井 入(しい はいる) ・・・スキー関係誌のペンネームで現在の秀島一生です。
イラスト/須藤健一氏

なおこのコラム集は、雑誌「ブルーガイドスキー」にかつて連載されたものを若干の加筆・修正を加えたものです。

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